『何時の頃からか悲しみや、楽しみといった感情の浮き沈みをなくしてしまった。
否、正確に言うとそういった物を表に出すのを避けてきたのかもしれない。』

こんな事を話していたら、目の前の君はちょっと物憂げな目をしながら僕の顔を覗き込んだ。

『少し疲れているんじゃない?』

君はそう言うと、途端にケラケラッと笑った。
しかしそんな君の目の中にも僕と同じ「感情を無くしてしまった淋しさ」を見る事が出来た。

 18の時に大喧嘩をして以来、自分の親とまともに話した事は無かった。
彼女が出来た時の嬉しさも、喧嘩をしてどうしていいのか判らなかった時も、
彼女から「さよなら」を言われた時も・・・・・・
全てを自分の中にしまい込んで誰にも話さなかった。

 22の秋のある日、あても無く家を出た。
車のガスメーターがエンプティーになるまで、走りつづけた。3回満たした燃料が無くなる頃たどり着いたこの街で君と出会った。
この街に住む為に車を売り払い、君にTELした。

 あの日から17年、
真新しい車のサイドシートに君を乗せてガスチャージ1回でたどり着くあの町へ出掛けよう。
僕の親の住んでいるあの町へ。

 そこに全てが、無くした全てが在る筈だから・・・・・

                                         
話題:散文